万力
●万力の仕組と特長・万力とは、バイス(VISE)とも呼ばれ、さまざまな工作物の加工・組立作業時に、工作物を相対する2面の口金の間にはさみ、強く固定する工具です。目的とする用途・作業によって、多種類の形式があり、選定に当たっては、充分な検討が必要です。
〔使いみち〕
・万力の用途別分類は表1に示す通りですが、大別すると手仕上用万力と、機械加工用万力があります。それぞれ形状、仕様、性能がちがっていますが、ここでは、代表的な万力の形状と使いみちについて説明します。

●手仕上用万力
・卓上取付万力
小形で下部に工作台、テーブル面等に固定するネジ方式、吸着盤方式の取付け部を持ち、日曜大工・プラモデルの組立など小さい細工にも適していて、ホームオーナーに多く使われています。(写真1.2)

・横万力
手仕上用万力を代表するものがこの横万力(箱万力ともいう)です。形によって、丸胴形と角胴形の2種類に分けられます。ヤスリ仕上げ、タガネ作業、組立作業に多く使われ、構造も堅固であることから金型治工具等の熟練を要する精巧な仕上げ作業に適しています。(写真3.4)
・立万力
本体全体が鋼で作られ、著しい衝撃力に耐えられる万力で、ハンマー作業にも適しています。また胴長の構造ですので、長尺物の工作物に適しています。(写真5)
・パイプ万力
主として配管工事の時に使われ、パイプのように、丸い形状の固定に適した構造・口金として設計されています。
・木工用万力
各種木工所、木型製作所など、工作物が木製品の時に使われるため、口金の幅は広く、そして木製品に傷が付かないように、口金面に木の板を張りつけて使うこともあります。(写真6)

・しゃこ万力・手万力
いずれも小型にできていて、軽便な作業に適しています。しゃこ万力はCクランプとも呼び、鉄板を重ねて固定した上での溶接作業、穴あけ作業に適しています。手万力は小物を細工する場合に、片手で作業ができるものです。10(写真7)

●機械加工用万力
・平削盤用万力
プレーナー、中ぐり盤など、大きな工作物をテーブル上に固定する万力の一種で、固定側と可動側が分離していることから、口の開きが無限大といえるほどの特殊な万力です。(写真8)
・フライス加工用万力(JISの工作機械用万力)
機械加工用万力を代表するのが、この万力です。立形、横形のフライス盤加工に適し、万力自体は高い剛性と精度が確保されていて、高精度な加工ができるように設計されています。(写真9)

・ボール盤加工用万力
ボール盤加工時に工作物を固定する万力で、工作物の形状に合わせて口金の形状も考慮され、口金の開閉もワンタッチで行えるよう、口金の開閉・締付作業が一本のレバーで行えるものです。(写真10.11.12)

・マシニングセンター用万力
多品種少量、高精度な加工に適したマシニングセンター用の万力で、万力自体の剛性は高く、精度も高いものです。特に、横形マシニングセンター用に立形万力もあり、切削時の応力に対しても変形が少ないよう設計されています。(写真13.14)
・研削加工用万力
超精密加工を行うために、熱処理後精密研削加工され、各部寸法はミクロンオーダーに仕上げられています。また各種形状の工作物の加工ができるよう、回転と角度割出しができるような設計となっています(写真15)


・その他
放電加工用万力とか、鋸盤用万力とか特殊な加工目的に適した万力があり、防錆に対する考慮、特殊形状品の固定が可能な口金等、それぞれの目的に応じた万力が設計されています。
〔寸法種類〕
・万力の大きさは、一般的には、工作物を固定する口金の長さで呼び、呼び寸法75、100と呼びます。また口金の開く寸法は、呼び寸法と同等以上に設定されています。ただし、しゃこ万力は使用寸法、手万力は全体の長さで呼んでいます。
・取付万力は、日曜大工などの普及により広く使われ、38、50、63、75、100、125と6種類があります。
・横万力には丸胴形と角胴形の2種類があり、JISには(表3、表4)、75、100、125、150の4種類が規定されていますが、大型万力として200、 250もあります。口金の幅寸法a1に対し、口の開き寸法a2は同等以上に設定され、固定される工作物の深さa3(口金の中心位置から摺動面の上まで)も口金の幅寸法と近い寸法になっていて、安定して工作物が固定できるようになっています。構造的には丸胴形が堅固になっていますが、剛性向上のため、最近では、本体・可動体の材料に球状黒鉛鋳鉄(FCD50相当)を用いた角胴万力も市販されています。
| (表3) | 横万力(丸胴形)のJIS規格寸法 | 単位:mm | |||||||||||
| 呼び寸法 | 本体 | 可動体b | ハンドル | 締付ねじ | 口金 | 取付穴d2 | |||||||
| a1 (最小) |
a2 (最小) |
a3 (最小) |
寸法 | 寸法差(1) | c1 (最小) |
c2 (最小) |
呼び径 | 1 (最小) |
e1 ±0.7 |
e2 ±1.0 |
寸法 | 寸法差 | |
| 75 | 75 | 85 | 75 | 55 | ±0.7 | 220 | 12 | TM20 | 45 | 9 | 18 | 11 | ±0.5 |
| 100 | 100 | 110 | 85 | 60 | 250 | 14 | TM22 | 50 | 12 | 21 | 14 | ||
| 125 | 125 | 135 | 95 | 70 | ±1.2 | 290 | 16 | TM25 | 60 | 14 | 24 | 18 | ±0.7 |
| 150 | 150 | 150 | 100 | 85 | 330 | 18 | TM28 | 70 | 15 | 29 | 18 | ||
(表4)
| 横万力(角胴形)のJIS規格寸法 | 単位:mm | ||||||||||||
| 呼び寸法 | 本体 | 可動体b | ハンドル | 締付ねじ | 口金 | 取付穴 | |||||||
| a1 (最小) |
a2 (最小) |
a3 (最小) |
b1 (最小) |
b2 (最小) |
c1 (最小) |
c2 (最小) |
d2 | 1 (最小) |
e1 (最小) |
e2 (最小) |
d1 | 許容差 | |
| 75 | 75 | 90 | 60 | 50 | 40 | 180 | 12 | TM16 | 45 | 9 | 18 | 11 | ±0.5 |
| 100 | 100 | 100 | 65 | 60 | 45 | 225 | 13 | TM20 | 50 | 12 | 21 | 11 | |
| 125 | 125 | 125 | 85 | 65 | 60 | 255 | 15 | TM22 | 55 | 14 | 24 | 14 | |
| 150 | 150 | 150 | 95 | 75 | 65 | 295 | 16 | TM25 | 60 | 15 | 28 | 14 | |
・立万力は、座金を工作台に取付けると同時に、下の方に出ている長い脚を工作台に固定して使うもので手荒な作業にもよく耐えられるようになっています。寸法は、75、100、125、150、175、200の6種類があります。
・手万力は蝶ねじで締めて作業するもので、立万力と同じように、ばねの作用で開く構造になっていて、100、125、150の3種類で、口の幅は、25、32、38となっています。
・しゃこ万力は、バーコ形、C形、堅牢形などがあり、25mmから200mmまでの7サイズがあります。
・パイプ万力には、呼び寸法80、105、130、170の4種類があり、締付けられる管の外径は80が10~77mm105は10~102mm、130が10~128mm、170で20~166mmと設定されています。
・平削盤用万力は重切削用であり、本体の材質は球状黒鉛鋳鉄(FCD50相当)で作られていて、口金の幅寸法は62mm、85mm、120mmの3種類があります。
・フライス加工用万力は、JISに規定されている(表5)通り、呼び寸法は、75から250まで8種類あります。万力の総高さ寸法が高いと、フライス加工の有効寸法が小さくなるため、口の深さ寸法も小さく設定されています。加工時の必要に応じ角度割出しのため、旋回用ベースもあり、1°きざみの目盛りの彫刻がなされています。
| (表5) | フライス加工用万力のJIS規格寸法 | 単位:mm | ||||||||
| 呼び | 口金 | フレーム | 旋回用ベース | 取付けボ ルトのね じの呼び d(1) | ||||||
| 口金幅 | 口深さ | 口金開き | 長さ | 幅 | 高さ | 長さ | 幅 | 高さ | ||
| a1 (最小) |
a2 (最小) |
a3 (最小) |
b1 (最大) |
b2 (最大) |
b3 (最大) |
c1 (最大) |
c2 (最大) |
c3 (最大) | ||
| 75 | 75 | 30 | 45 | 250 | 110 | 100 | 180 | 140 | 30 | M10 |
| 100 | 100 | 35 | 50 | 290 | 170 | 110 | 230 | 180 | 35 | M12 |
| 125 | 125 | 40 | 75 | 380 | 200 | 120 | 280 | 220 | 40 | |
| 150 | 150 | 45 | 100 | 470 | 220 | 130 | 330 | 260 | 45 | M16 |
| 175 | 175 | 50 | 125 | 560 | 250 | 140 | 380 | 290 | 50 | |
| 200 | 200 | 55 | 150 | 650 | 280 | 150 | 420 | 320 | 55 | M18 |
| 225 | 225 | 60 | 175 | 740 | 310 | 160 | 460 | 350 | 60 | |
| 250 | 250 | 65 | 200 | 830 | 340 | 170 | 500 | 380 | 65 | |
・ボール盤万力は、加工目的により種々の形状・構造のものがあり、ベタバイス、ヤンキーバイス、クイックアクションバイス、ホビードリルバイス等があり、締付け機構も、ねじ方式、カム方式があり、早締機構や角度調節のできるもの等色々とあります。呼び寸法は75、100、125、150が基本になっていますが、用途により38、 60、80、90、200と多くの種類があります。
・マシニングセンター用万力は、高い精度を維持し、加工精度を向上させるため、万力にすぐれた剛性と精度が要求されると同時に、締付け時の工作物の浮上りを防ぐ機構が考慮されています。呼び寸法は、100、125、150、200、250の5種類があります。マシニングセンター用万力は、特に高い精度が求められますが、フライス加工用万力と基本的には大きな違いはなく、一般のフライス加工にも用いられます。マシニングセンター自信に立形と横形の2種類があるように、万力にも使用目的に応じ、立形と横形の2種類があります。また、作業方法、生産体制などの条件により締付機構はねじ方式、油圧機構方式、油圧・空圧併用方式があります。(写真17)口金の幅寸法は、140mm、160mm、口の開く寸法は250mmと350mmの2種類があります。油圧内臓式のマシニングセンター用万力は、100、125、150、200、250、の5種類があり、軽い操作力で4トン程の締付力が得られます。(写真18)
・研削加工用万力は作業の性格上、非常に高い精度に仕上げられていて、主要寸法は数ミクロンの精度が確保されています。形式・寸法も多岐にわたりますが、基本的に口金の幅寸法は60mm、75mm、80mm、100mm、125mmが主流です。形式は、サインバイス、2次元バイス、一般形(横形)の3種類で、長くその精度を維持するため、焼入れ(HRC60)を行い、サブゼロ処理を施した万力もあります。
〔使われている材料〕
・万力の主要部品の材料は、その目的・用途に応じて、種々な材料が使われています。
・卓上取付万力は、小型・軽量を特徴とするため本体・可動体部にねずみ鋳鉄(FC20相当)を多く用い、ねじ部分には機械構造用炭素鋼が使われています。なお特に軽量を要する製品はA㍑合金材料も用います。
・横万力、パイプ万力、木工用万力等では、その用途に応じて、本体・可動体部の材料を、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄と使い分けし、激しい使い方に対する耐久性・剛性を与えています。ねじ部・ハンドル部には、機械構造用炭素鋼が用いられ、口金には焼入れ性・耐久性を考慮し、炭素工具鋼SK5、クロムモリブデン鋼SCM440を使い、口金の硬さは、HRC45~60となっています。
・立万力は、機械構造用炭素鋼の鍛造品で本体・可動体部が作られていて、高い靭性を持ち、スピンドル部は機械構造用炭素鋼が使われています。 * 機械加工用万力は使用時に高い精度が要求され、万力自体にも高い剛性が要求されます。一般的な使い方で用いるフライス加工用万力、マシニングセンター用万力は、フレーム、固定あご、移動あごをねずみ鋳鉄(FC25相当)としていますが、高精度を要する万力には球状黒鉛鋳鉄(FC50~60相当)が用いられます。ねじ部は、機械構造用炭素鋼S45Cが用いられ、締付機構が油圧方式のシリンダー、ピストン等の部品は、機械構造用炭素鋼S45C、クロムモリブデン鋼SCM440等を熱処理して用いられています。口金部は炭素工具鋼SK5、クロムモリブデン鋼SCM440等を焼入れ(HRC50~60)し研削加工の後に取付けられています。ハンドル部は、使いやすさを考慮し、フライス加工用万力などについては、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄などの鋳造品を用いています。
●万力の使い方
〔使い方の注意〕
・近年、万力は数々の用途に別れると同時に高度化されてきました。これまでの堅固で、強く固定すれば良かった時代から、使いやすく、美しく、高精度でかつ、 FMS化に対応でき、作業性も向上する等々と、万力に対する考え方が大きく変わってきたことから、それぞれの万力にいろいろな機構が組込まれています。
・例えば、工作台へのバキューム吸着、木工用万力の速締機構の内臓、フライス加工用万力の工作物浮上がり防止機構、締付力のデジタル表示システム、ボール盤加工用万力のシングルハンド化、マシニングセンター用万力の立形化・多数台化と、研削加工用万力の超高精度化、ロボットとのインターフェース化等々があります。また、万力の基本となる締付機構も、従来のねじ方式から、油圧方式、空圧方式、油圧・空圧併用方式、カム方式、バネ方式(表2)と多元化したことから、万力の選定に際しては、作業目的、作業条件を十分に検討し決定しなければなりません。例えば、A㍑合金のような材料で複雑な形状の加工物の時、加工時とアンクランプ時では、加工物の寸法が歪みにより変化することがありますが、最も適切な締付力を事前に設定し、作業標準に記入し、未熟練者でも、デジタル表示を見ながら締付力を設定すれば、不良品を作ることもありません。(写真16)


また指2本程度の操作力で、4~5トンの締付力を出す油圧方式の万力は便利ですが、狭いスペースに油圧機能が内臓されているだけに、機能を常に発揮させるためのメンテナンスが必要です。
・万力は、基本的には堅固に製作されていますが、目的によっては、油圧・電子部品の内臓もあり、放り投げたり、落下させるなどの直接的な強い衝撃を与えることはよくありません。また万力は、適正な締付力でしっかり固定すべきもので、万力自体もそのように設計されています。締付けた後にハンドル部をハンマー等で叩いたり、一度締付けた工作物をハンマーで叩いたりするものではありません。
・口金で固定される工作物は、形状、材質が千差万別で、一般的には熱処理が施され、耐久性にすぐれた口金が組付けされていますが、表面の軟らかい木製・プラスチック・銅製の口金、またあらかじめ工作物の形状に合わせた異形の口金もあります。
・フライス加工用万力、およびマシニングセンター用万力による加工は、高い精度が要求されますし、締付け時の工作物の微少な浮上がりもトラブルの原因となります。そこで近年は、特殊な機構を内臓し、工作物の浮上がり防止付き万力が主流となっています。
・万力自信の動きは簡単ですが、その目的に対応するための構造・システムは複雑なものが多く、取扱い説明書を事前によく理解して使うことと、メンテナンスを充分行うことが万力をうまく使う一番のコツといえます。



